To The City of Sloe Gin Fizz

翻訳、英語、海外移住、国際結婚などについて。

私が英語を「読める」ようになるまで

ブログをはじめてすぐに書いた機械翻訳に関する翻訳者セミナーの紹介記事が、いきなり「週間はてなブログ」に掲載された。

blog.hatenablog.com

あの記事を読んで読者登録をしてくださった方も多く、ありがたいことだ。ありがとうございます。最初はもっとふわふわした国際恋愛楽しいよー系のブログにしようと思っていたんだけれど、せっかくなので少しずつ英語や翻訳関係の記事を充実させていこうかと思う。

今回は、自分が英語の記事や書籍を辞書なしで読めるようになるまでのステップについて。

英語を読むのが仕事

当然ながら、翻訳の仕事というのは長い英文をスピーディーに読めないとできない。正確に訳すために、仕事の時はとにかく細かく辞書を引くのだけれど、訳出の作業の前にまずは全体の内容を読み下して理解しないといけない。

もちろん、初めから辞書なしで英文が読めたわけではなかった。ここでは、自分がどんな風に英文を理解してきたか、少し振り返ろうと思う。

例として英語版Wikipediaから1文引っ張ってきた。

Though not the first fictional detective, Sherlock Holmes is arguably the best known, with Guinness World Records listing him as the "most portrayed movie character" in history. 

Sherlock Holmes - Wikipedia

「史上初めての創作上の探偵というわけではないにせよ、おそらくはもっとも広く知られているのがシャーロック・ホームズであり、ギネス世界記録には史上『もっとも多く映画に登場したキャラクター』として掲載されている」

こんな感じか。翻訳が仕事だと言いながら自分の翻訳をブログに載せるのって、なかなか怖いもんだ。間違いがあったら知らせてください。

シャーロック・ホームズなのは私の趣味だ。30年の人生の中で20年はシャーロック・ホームズファンだ(シャーロキアンとは恐れ多くてとても名乗れない)。

最初は文を分解しないと読めなかった

高校生から大学の学部生ぐらいまでの頃は、ほとんど文を分解して読んでいたように思う。文の構造を把握するためにひたすら記号を書き込んでいたのだ。

(Though) / (Sherlock Holmes is) [not] the first fictional detective /

[Sherlock Holmes] is(=) + (arguably) + [the best known] (fictional detective) , / with 

[Guinness World Recordslisting → [him]  as(=) [the "most portrayed movie character"] +(in history).

ブログだと再現しきれない上に、たぶん私以外の人にはちんぷんかんぷんだと思うが、基本的にはスラッシュを書き込んで英文を細かく分割した後、省略されている部分を補足し、主部と述部、目的語など、単語同士の関係性を構造的に把握していた。高校で学んだ英文法だけを頼りに、品詞分解のようなことをやっていたのだ。

実際にはわからない単語を調べてからさらに上記の分解をするので、つらい。時間もかかる。学部時代はしばらく地道にこういうことをやっていたのだがいい加減うんざりしてきて、英文学の教授に「どうやったら英語が速く読めるようになるんですか?」と質問して「まあ、慣れだね」と言われて絶望したことがある。一生慣れないような気がしたのだ。

文を適当に区切って読むようになった

とはいえ、そのうち上記のプロセスを大体頭の中で処理できるようになり、卒業論文に取り掛かるころにはスラッシュを書き込むだけで英文を把握できるようになった。

Though / not the first fictional detective,/ Sherlock Holmes / is arguably the best known, / with Guinness World Records / listing him / as the "most portrayed movie character" in history. 

後で知ったのだが、このように英文をいくつかのパーツに分けて、パーツごとに意味を把握して全体を理解するやり方を「スラッシュリーディング」というらしい。

www.rarejob.com

レアジョブのブログにもあるけれど、この時、区切り方にはあまりこだわらない方がいい。直感的に自分が意味をとりやすいまとまりで区切るといいようだ。またこの時、主部と述部に焦点を当てて先に拾うようにすると早く意味を把握できる、ような気がする。

たぶん、英文の分解から入らない方がいい

で、そのうちスラッシュもいらなくなって(長い文をそのまま頭の中で処理できるようになった)、語彙力も大体ついてきて、辞書なしで英文を読める現在に至る。

これから英語のリーディングを鍛えよう、という人は、たぶん私がやったような文の分解はしないほうがいい。私のスピーキングとリスニングのスキルがいまいちなのは、ああいう分解をやっていたころの思考の癖がまだちょっと残っているからじゃないかと思う。おそらく、単語をこまめに引いて語彙力をつけつつスラッシュリーディングに徹する方が早く上達するだろう。その方がつらくないし。

英語の勉強、私の場合

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ポートランドのセント・ジョーンズ橋。ゴシック様式の教会堂にそこはかとなく似ているので、この橋がある公園は「カテドラル・パーク」と呼ばれる。

たまに「英語どうやって勉強したんですか?」と聞かれる。聞かれるたびに、そういえばどうやって勉強したんだろうな、と思う。

私は死ぬほど怠惰だ。自分が楽しいと思うことしかしないし、できない。なので英語を「勉強した」という意識自体があんまりない。ぶっちゃけ英語力も大したことはない。

現状はこんな感じ

・最後に受けたTOEIC L&R(2年前)は860点。

・仕事のメールは問題なくやりとりできる。多少込み入った指摘や訳文の説明も、相手に通じなかったことはない(ただしGrammarlyを入れて冠詞やスペルのチェックはしている)。

・彼氏との間では、日常のちょっとしたやりとりは日本語を使うが、政治の話や込み入った将来の話は英語でする。

・自分が大学院でやってきたことは英語で説明できる。

・ただし、一対一の会話でも、明瞭に発音してもらわないと相手の言葉が聞き取れないことがある。

・複数人でわいわいし始めると完全についていけない。

・焦って話すとすぐに簡単な単語や代名詞を間違う。Heとsheを取り違える!

・発音は悪くないので、自分の話していることがまったく通じないという経験はあまりない。

…なんというか、「できない」わけじゃないんだけれど、「できる」集団の中では最底辺って感じだ。CEFRだとC1いかないと思う。

とはいえ、世の中にはこのあたりまで来るのに苦労している人もまた多いはず。私自身も時間はかかったし。とりあえず、英語は話せるようになりたいけれど、なかなか意思疎通ができない…そういう人を念頭に置きつつ、私が今まで何をしてきたのか、少し振り返ってみようかと思う。

 

1.とにかく英語に触れ続けた

中学校で習い始めて以来、英語に触れること自体はブランクを空けずに続けてきた。大学院に入ってからは日本語に訳されていない情報を仕入れなければならなかったし、海外の学会で英語でペーパーを書いて発表したことも何度かある。そのための指導も受けた。

人によっては大学を卒業して英語を使わない職業に就くと、そのまま英語から離れてしまうこともあるだろう。そうすると、何かきっかけがあって再開する時に難儀してしまうかもしれない。細く長くでいいから、何らかの形で英語に継続的に触れることは意外と大事だと思う。

 

2.毎日読んだ

大学ではヘミングウェイなどを読んでいたが、辞書なしで、かつ返り読みせずに頭から読めるようになるまでは結構時間がかかったと思う。一時期、大学への行き帰りの列車の中で(片道一時間半かかっていた)、BBCニュースの短い記事を必ず1本は毎日読む、ということをやっていた。疲れているときは1パラグラフだけにしてしまう、でも必ず読む。ちなみに、そうしてBBCニュースが辞書なしで読めるようになったころにThe Guardian紙の社説を読もうとして、全然読めなかった衝撃は今でも覚えている。語彙が全然違うんだ。さすがに今は読める。

 

3.英語で話す機会を作った

なんやかんやで英語で話す集まりに顔を出したり、ネイティブの人に一対一で教えてもらったり、そういう機会は意識して作っていた。一番力がついたと思うのは、一通り雑談した後で自分の発言のミスをひとつひとつ拾ってくれる先生に個人指導を受けたとき。いろいろあって半年くらいしか教わることができなかったんだけれど、またああいう指導をしてくれる人を探そうかと思う。

 

4.モチベーションと目的意識があった

高校生の頃から、とにかくサリンジャーの「バナナフィッシュにうってつけの日」を

原文で読みたかった。あとSeven Nation Armyの歌詞の意味も知りたかった。漠然と英語がやりたい、というだけではなく、英語で何をしたいのかが明確だったのは、モチベーションの維持につながったと思う。

 

5.リーディング力で全部カバーしている

上述の通り、私の学習のモチベーションは基本的に「読めるようになりたい」というものだったし、やってきたこともリーディングがメインだったから、リスニングとスピーキングはまだまだヘボい。

もっとも、リーディングの力はリスニングの力をある程度支えてくれる。面白いことにTOEICを受けた際、一番簡単な最初の2問が不正解で、長い文章を聞き取る必要がある後半の問題は全問正解していた。短い文一発だと、聞き取れなければそれっきりになってしまうが、長い文章なら聞き取れた部分から文脈と内容を類推して正解を導き出せるからだ。この能力はリーディングで身についた部分が大きい。人とコミュニケーションを取る時も基本的にそうやって対処しているような気がする。

すると、私と逆にリスニングとスピーキングを中心にやってきて伸び悩みを感じている人は、ごりごりとリーディングをやるといいのかもしれない。

 

今後の課題

スピーキングとリスニングの訓練に尽きる。一応、自分なりに少しずつ対策をし始めている。これについてはまた後から(毎日ちゃんと続けられるようになってから)書こうと思う。